ネパールの常識は日本の非常識 学校教育編【現地ライターが語る】
ナマステ~、ネパールのポカラ在住ライターみやちかです。
早いもので日本を出てから早21年となってしまいました。
とはいえ、長く住めば住むほど、いろんなことが???となるネパールの摩訶不思議。
今日は学校教育について、日本人の私からみて「?」だったり、「へえ」と思ったり、「そんなんあり!?」と感じたことを書いてみたいと思います。
みやちか
とはいえ、ネパールのお話って一般論で語るのが難しいんです。
まだまだ地域格差、階級格差が大きいですからね。
僻地の村では、けっこう状況が違ったりします。
(が、急速な道路の整備と電力の普及で、田舎の状況は今、大きく変わりつつあります)
今回わたしがお話するのは、普段住んでいるポカラやうちのツレアイが学校を運営しているカトマンズといった都市部におけるお話です。
この記事のもくじ
英語教育に関しては、日本よりずっと進んでいる!?
ネパールの私立では、日本でいうところの小学校1年生から、国語以外の教科は全て英語の教科書を使った授業がおこなわれます。
英語の授業はもちろん、算数も、社会も、理科も英語で書かれたテキストを使います。
といっても低学年の授業では、先生のお話自体はネパール語と英語と混ぜながらになりますが。
それでも、やっぱり英語で習っていることに変わりなく、テストだって、英語での設問、英語での回答になります。
小学校1年生から国語以外を英語で勉強することの是非に関しては様々な意見があるとは思いますが、ネパールの小学生の方が、日本の小学生よりも英語力が高いのは確か。
(変な訛りや、会話の不自然さはありますが、それは日本英語でもあることですからね)
英語教育に関しては、日本よりずっと熱心であると言えるでしょう。
(私的には、このやり方が必ずしもいいとは思っておりませんが)
私立は特別ではない
「いやいや、そんなの私立だけでしょ!」と言われる方もあるかもしれません。
もちろん公立では、英語の授業以外はネパール語の教科書で学びます。
それでも小学生からしっかり英語の授業が組み込まれています。
それに、日本と違って、小学校から私立へ行くというのは全然珍しいことではないのです。
(そもそも日本のような小学校というものが存在しませんが、そのお話は後ほど)
私立の小学校というと、日本だと特別にお金持ちの人が行くところというイメージがあるかもしれません。
でも、ネパールでは、私立の小学校は日本ほど特別な存在ではありません。
ちゃんとしたデータがあるわけではありませんが、感覚として、カトマンズやポカラでは、公立に通う子よりも私立に通う子どもの数の方が多いように感じます。
私立の授業料もピンキリで月謝が15000ルピー(公務員の最低月収程度)の学校もあれば、1500ルピーという学校もあります。
両者における校舎や設備などの面での格差は激しいのですが、それでも、英語教育を基本にしていることに変わりはありません。
幼稚園という名の小学校予備校
小一から始まる英語での授業。当然ながら、入学した時点で多少の英語の基礎は必要です。
アルファベットが読める書けるのは当然のこと、日本の中一程度の英語はカバーしておかねばなりません。
そんなわけで、私立に入るためには幼稚園である程度、英語を勉強しておく必要があります。
日本で保育所、幼稚園というと、遊びながら学び子供の創造力を伸ばすところいうイメージが強いと思いますが、ネパールでは、まるで小学校予備校のよう。
15年前のネパールでは、情操教育の概念が今以上に希薄で、幼稚園でも椅子と机に座らせてお勉強をさせているところが多かったと思います。
今では、遊びながら学ばせる重要性が少しは浸透してきたようで、昔よりはお勉強スタイルではないように思います。
それでも、幼稚園から宿題、テスト、成績表があるのが普通です。
母国語の読み書きが苦手な子が増えてきた
英語教育に傾倒しているということは、逆にいえば、母国語教育がおろそかになっているとも言えるわけで…。
最近の20代前半より若い子たちときたら、読み書きは英語の方が簡単だというのですよ。
日常会話はネパール語でなされることはなされるんですが、会話を聞いていると随所に英語が入ってきます。
英語で喋る方がかっこいいという感覚もあるようです。
でも、ネパール語で役所に提出するような形式的な文書が書けない子は結構多い。
果たして、これでいいのでしょうか???
私立では、試験料なんてものを試験ごとに徴収する
授業料が無料の公立と違い、私立は月々の月謝を徴収します。
が、それ以外にもちょこちょこいろんなものの請求がくるんですよね。
その一つに試験料というものあります。
必ずしも全ての私立にあるわけではありませんが、学期末ごとの期末試験の前に試験料を徴収するというものです。
日本人の私的には「一体なんね、その試験料ってのは」って感じですけど。
しかしですね、学校側からすると、試験というのは集金のいい機会でもあるのです。
たとえお金持ちであっても、ネパール人の金払いはあまりいい方とは言えません。
長年、ネパールでビジネスをしてきた私の実感として、回収率は日本に比べて低いです。
回収にかける時間は日本の2倍、3倍でした。
それは学費も同じこと。
うちのツレアイの経営する学校でも、回収できてない焦げ付きが結構あったりします。
そんなわけで月謝の未払いがあると試験を受けるのに必要な試験票を発行しないという学校もあります。
月謝の回収に向けて、あの手この手、敵もなかなか考えますな。
クラスで何番目かが記入された成績表
私の小学校の成績表には、よくできました、ふつう、がんばりましょうの3段階評価しかありませんでした。
しかし娘が持ってきた小学校の成績表は100点満点中(試験の結果、宿題の提出率と宿題の出来、普段の授業での発表などからトータルで算出されるもの)何点かという絶対評価の成績表。
しかも、クラス何人中何番かという順位付きときた。
これ、小学生に厳しくない!?
36/36とか書かれてたら、36人中36番ってことですよ。
日本でこんなことしたら、大論争を巻き起こしそうですが、ネパール人の親は、これがフツーと思っているのか、とくに反対を唱える声は聞かれません。
そして、全ての学校にある制度ではないですが、学年一位の子は授業料無料という制度を設けている私立学校は結構あります。
成績優秀者をキープしようという試みなんでしょうね。
何しろ、どれだけ成績優秀者を出せるかは、学校の人気、ひいては入学率、最終的には学校の売り上げに関係してきますから。
常習的なカンニングとカンニング防止作戦
娘の話によると、子どもたちは試験の度にあれやこれやのカンニングテクニックを行使してなんとかいい点を取ろうとしているようです。
カンニングは日常茶飯事のようで、それを防止しようとする学校側と子どもたちの攻防戦が試験の度に繰り広げられます。
そんな学校の措置の一つが、試験中の席指定です。
試験期間は、生徒はいつもの自分の教室の自分の席には座りません。
全ての学年の生徒をごちゃまぜにした試験期間中限定の席割りが決められます。
前後左右に違う学年の子が座れば、回答を覗き見して写すというカンニング行為は少なくとも避けられるというわけです。
私立も公立も制服がある
私立も公立も幼稚園ですら、ネパールでは制服があるのが一般的です。
制服はフツーに洋服です。
男の子ならシャツにネクタイ、長ズボン、黒い革靴。
女の子ならシャツにネクタイ、プリーツスカート、黒い革靴。
というのが定番スタイル。
学校ごとにシャツの色やズボン、スカートの色が違います。
女の子の髪型は、三つ編み指定の学校も多いですね。
リボンの色も学校指定です。
カバンは指定のものは特にないですが、リュックタイプのものが主流です。
何しろ教科書重いんです。
毎日7教科分とか持って行って持って帰ってきますから。
そして、幼稚園部も同じ制服きます。
3歳の子にネクタイに革靴?と思いますが、同じです。
さすがに3歳児にそれはないでしょと私なんかは思うんですけどね。
実は小学校は存在しない、その意味は?
ネパールでは一応初等教育、中等教育と、学年で呼び名が分けれていますが、日本のように、小学校、中学校、高校と別々の学校になっているわけではありません。
1年生から12年生まで通しで、おなじ学校で学ぶスタイルです。
(以前は10年制でしたが、最近制度が改定されて、12年生までの一括教育へと移行しています。が、完全移行できてない学校もまだまだあるようです)
1学年1クラスしかないような学校だと、1年から12年まで顔ぶれがほとんど変わらないということもあり得ます。
12年間クラスメートなんて、なんか、すごいですよね。
プールや理科室、図書室があるのはお金持ちの有名私立だけ
日本では、小学校というと、音楽室、理科室や図書室があるのは当たり前で、100m走ができる広い校庭に、プール、体育館があるのが当たり前でしょう。
でも、そんなものがあるのは、ネパールでは、私立の中でもごく一部、月謝が公務員の初任給と同じくらいのお嬢様おぼっちゃま学校くらいでしょう。
バレーボールのコート一面取るのがやっとみたいな校庭しかない学校も多いし、プールや体育館なんて贅沢品。
当然、水泳の授業なんてありません。
それに、理科室ないのはどうなんでしょうね。
教科書にこうやって実験やりますよ~って掲載されてはいるのですが、ネパールで9年生まで勉強したうちの娘は、一度も理科の実験をしたことはありません。
(こういう実験は高校の理系だとやるよと言ってましたが)
「こういう実験すると、こういう結果になりますよ~」って教科書読みながら先生が説明しておしまい、だそうです(娘談)。
そんなのあり????なんでしょうか!
私立でこれですからね。
公立の学校は、推して知るべしです。
学校で生徒による掃除当番は存在しない
ネパールには、ジャートと呼ばれるものがあります。
いわゆる階級制度です。
一応建前として全てのジャートは平等みたいにうたわれてはいますが、所詮、建前はタテマエに過ぎません。
職業カーストの考え方が根強く残るネパールの社会では、「掃除は下層カーストのするお仕事」と考える人はまだまだ多いのです。
ハイカーストの人ほど保守的で、学校で子どもに掃除を強制しようものなら、怒鳴り込んでくる親がいないとも限りません。
そんなわけで、日本では当たり前の、掃除当番制度というものはネパールの学校には基本的に存在しません。
(最近では。新進的な試みとして、掃除当番を取り入れいてる学校もあると聞きました。いい傾向だと思います!)
自分たちが使う教室を自分たちできれいにする、そういう心がけって大事だと思うんですよね。
町内会ごとの土曜日の道路清掃活動は、ポカラではチョコチョコ見かけるようになりましたが、もしかしたら学校の掃除当番も徐々に浸透するかも?
なんて期待は甘いのでしょうかね?
ネパールの教育熱はどこまで高まるのでしょうか?
できるだけいい教育を受けることで、より良い未来が開ける。
身分階級制度がまだ日々の暮らしの中で残るネパールで、のし上がる武器の一つが教育です。
といっても慢性的な就職難の状態が続くネパール国内では、いい大学を出たからといって、いい就職が望めるわけではありません。
彼らの目標は国境の向こう。
そして、お金持ち階級の子どもたちの目もやはり海の向こうへ向いています。
外国の大学へ行くことは彼らにとってステータス。
庶民にとっては、外国の大学~そのまま現地就職という、のし上がるためのステップです。
そんなわけで、ネパールの教育熱はまだまだ下がりそうにありません。
でも、これからの課題は量より質。
私はそんな風に思うのですが、これからどんなふうに変わっていくのでしょうか?
情操教育がカリキュラムに取り入れられるようになったり、先生の資格制度が整備されたり少しずつネパールの学校教育をめぐる環境も変わりつつはあります。
外国人のおばさんとしては、ただただ、優しく見守るばかりなのですが。